SI Link Journal

学習支援AIをどう選ぶか――東京学芸大学附属小金井小学校とUC San Diegoの授業設計に見る評価軸

BUSINESS / 中小企業の経営
淡い石の机に置かれた深い赤の布張り本と銀縁の眼鏡、白い無地のカード。学習内容を自分で確かめる姿勢を表す写真調の画像

機能の比較だけでは選べない

学校や学習塾、社内研修を運営する立場から生成AIの学習支援ツールを検討すると、比較表には機能、料金、対応端末が並びます。しかし、導入後に問われるのは、その道具で学習者が何をできるようになったのか、それを誰がどう確かめるのかです。機能比較だけで選ぶと、利用は進んでも成果を説明できない状態に陥りがちです。本稿では、公表されている二つの教育現場の取り組みから、学習支援AIを選ぶ際の評価軸を整理します。

文部科学省の指針が示す「場面」と「主体」

文部科学省は2024年12月26日、「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン(Ver.2.0)」を公表しました。同省の案内ページによれば、2023年7月の暫定版を基に、利活用する場面や主体に応じた留意点を、現時点の知見に基づいて可能な限り具体的に示したものです。あわせて、生成AIパイロット校を指定して実践知を蓄積する取り組みや、セキュアな環境での校務利用に関する実証研究も進められています。

ここで注目したいのは「場面や主体に応じて」という考え方です。同じツールでも、教員が操作するのか、児童生徒が直接使うのか、授業のどの段階で使うのかによって、必要な管理も期待できる効果も変わります。つまり、学習支援AIの選定は製品選びである前に、使わせ方の設計です。なお、同ガイドラインの対象は初等中等教育で、大学や企業内研修にそのまま当てはまるわけではありません。

https://www.mext.go.jp/a_menu/other/mext_02412.html

小学校の授業――教員が操作し、子どもが評価する

日本マイクロソフトが2024年5月に公開したレポートは、東京学芸大学附属小金井小学校の鈴木秀樹教諭による5年生の授業を紹介しています。4月18日の道徳と総合の授業で、子どもたちは初めてMicrosoft Copilotに触れました。それ以前の授業ではChatGPTを使っていたとされます。

この授業の特徴は、AIを操作するのが教員である点です。鈴木教諭は現段階を「教員自身が十分な知識を持ってデモンストレーションを行い、子どもたちに体感させる段階」と位置付けています。道徳の授業では、まず子どもたち自身が苦手な友達への声かけを考え、その後に同じ問いをAIへ入力します。入力の前には必ず「AIはなんて返すだろう」と予想させ、回答が出ると子どもたちは「共感できるけど何か足りない」と評価しました。総合の授業では、教諭自身の教育観をAIに尋ね、大事な情報が抜け落ちた回答を示して、生成AIが事実の確認には向かないことを説明しています。

鈴木教諭は、子どもがAIをどれだけ批判的に捉えられるかが鍵だと述べ、4〜5年生と2〜3年生とでは同じ授業が成り立たない可能性にも触れています。これは国立大学附属校における一教員の研究的な実践であり、数値的な成果は示されていません。それでも、年齢と認知の段階に応じて「誰が操作するか」を決めるという判断は、ツール選定の最初の条件になり得ます。

https://news.microsoft.com/ja-jp/2024/05/17/240517-microsoft-copilot-helps-elementary-schools-use-ai-in-the-classroom/

米国の大学――AIを使う課題と使わない課題を分ける

対照的なのが、Microsoftが2026年5月に公開したカリフォルニア大学サンディエゴ校(UC San Diego)の事例です。同校のコンピュータサイエンス学科は、GitHub Copilotなどのコード生成支援を一部の科目に組み込みました。

入門科目を担当するLeo Porter教授は、理解を確かめる宿題や評価ではAIを使わせず、創造性が問われる大規模プロジェクトでは全面的に利用を認める区分を設けました。552人を対象とした同教授の調査では、受講後に79%が生成AIを使ったプログラミングに抵抗がないと答え、59%がCopilotが概念の学習に役立ったと回答しています。上級科目では、手作業での習熟を確認した後にAIの高度な機能を教え、従来30〜40分かかった作業が授業内の演習では5分未満で終わる場面が多かったと、担当講師が説明しています。

ただし、79%と59%は受講者の自己評価で、試験の得点や習熟度を測った値ではありません。時間短縮も演習場面での観察です。むしろ重要なのは、同校が評価の方法自体を見直した点です。学生には動画で設計判断を説明させ、対面でコードの説明を求めて、提出物を本当に理解しているかを確かめています。さらに、学生とAIのやり取りの記録を収集し、授業改善に用いたとしています。

https://www.microsoft.com/en/customers/story/26539-university-of-california-san-diego-github-copilot

二つの事例から導く三つの評価軸

小学校と大学では対象も目的も異なりますが、共通する構造から評価軸を三つ導けます。以下はSI Linkとしての整理です。

第一は、利用の範囲を学校側が制御できるかです。教員だけが操作する、特定の課題でのみ開放する、試験では使えない、といった区分を、運用ルールだけでなくアカウントや機能の設定で支えられるかを確認します。ルールが紙の上にしかない状態では、区分が守られたかを事後に確かめる手段がありません。

第二は、学習の記録をどう扱えるかです。UC San Diegoは対話記録を授業改善に用いました。一方、未成年者の対話記録は、学習の過程とともに家庭環境や悩みを含み得る情報です。誰が閲覧できるのか、保存期間はどれだけか、提供事業者側でどう扱われるのかを、契約と設定の両面で確認する必要があります。記録が見えなければ改善はできず、見えすぎれば個人情報の管理責任が膨らみます。この均衡を取れる製品かどうかが判断の分かれ目です。

第三は、成果の測り方を導入前に決めているかです。利用率や満足度は集めやすい指標ですが、学習成果そのものではありません。AIを使わない課題での到達度や教員の準備時間など、比較できる指標と測定の時期を先に決めておかなければ、試行の後に継続か縮小かを判断する根拠が残りません。満足度の高さは継続の理由にはなっても、投資効果の説明にはなりません。

この三つの軸は、学習塾や専門学校、企業の新人研修にも応用できます。社内研修で、受講者がAIと共に作った成果物だけを見て習熟を判断すると、配属後に一人で業務をこなせるかが見えなくなります。AIを使わない確認の場をどこに置くかは、教育機関に限らない設計課題です。

見落としやすい費用は教員の時間

経営の視点では、総保有費用の中で最も見落とされやすいのが、評価のやり直しに要する教員の時間です。仮に1クラス40人に対し、対面の説明確認を1人10分ずつ行うと、1回の課題につき400分、約6.7時間が必要になります。4クラスを担当すれば約27時間です。ライセンス料が予算内に収まっても、この時間をどこから捻出するかが決まらなければ、評価の質は維持できません。

私立学校では、こうした支出と業務負担は年度予算と理事会承認の枠内で判断されます。複数年のライセンス契約を結ぶ前に、試行期間を一学期程度に区切り、成果指標、記録の取扱い、教員の追加工数を検証してから本格導入に移る段階的な承認が望ましいでしょう。試行の結果、AIを使わない評価に予想以上の工数がかかるとわかれば、対象学年や科目を絞る判断も合理的です。

学習支援AIの価値は、ツールの性能よりも、学校がその使い方を設計し、成果を確かめる仕組みを持てるかで決まります。選定の場では、機能の比較と同じ重さで、利用範囲の制御、記録の扱い、評価にかかる時間を問うことが、投資判断としての説明責任を果たす近道です。

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